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日本生物学オリンピック2013公開講演会
「此処から世界へ~日本生物学オリンピックが拓く世界の扉~」開催報告

    日本生物学オリンピック2013本選では、「此処から世界へ~日本生物学オリンピックが拓く世界の扉~」と題して公開講演会を行いました。最初にスイス大会で金メダルを受賞した新宅和憲さん、銀メダルを受賞した中村絢斗さん、真田兼行さん、横山純士さんに、浅島委員長よりプラチナ賞が授与されました。次に、国際生物学オリンピックOBでスイス大会にJuryとして参加した岩間亮さんと本多健太郎さんに大会の様子を動画を交えて紹介してもらいました。その後、スイス大会に参加した4名と岩間さん、本多さんにいろいろなお話しをお聞きしました。どんな話だったかいくつか紹介いたします。

日本代表の体験談


左から横山さん、中村さん、日本チーム担当のマルクスさん、真田さん、新宅さん
(スイス国際大会 閉会式にて)

日本生物学オリンピック終了後、国際生物学オリンピック代表決定までは、どのような勉強をしましたか?

    新宅さん「代表決定後国際大会に向けての勉強してきたことは大きく分けて4つあります。まず、代表決定後に渡されたキャンベル生物学の読み直しをしました。

    次に英語の勉強を兼ねてキャンベルの原著を読んでいきました。また実験面では、自宅にて貸し出されたマイクロピペットでその操作の練習をしました。個人的なチューター教育では広島大学にて主に動植物の解剖を行いました。」

実際に大会に行って、自分たちと海外の選手で一番違うなと感じたことはなんでしたか?

    中村さん「私がスイス大会に行って、海外の選手についてまず感じたことは、よく話しにぎやかなことです。とくにヨーロッパの選手たちを中心に、積極的に会話が交わされていました。私は、理論試験の前夜に、スイスやデンマークの3人とチームを組んで、ゲーム大会に参加しました。このとき僕は、他の3人との会話についていくのがとても大変でした。彼らは、英語を母国語のように自然に話すため、会話の展開がとても速かったからです。ここで僕は、自分の英会話の力のなさを痛感しました。
    また彼らは、議論がとても好きそうでした。ゲーム大会では、ハノイの塔やマッチ棒クイズなどが出されましたが、彼らは問題を見ると、まず気付いたことについて話し合います。気付いたことをもとに、今、どのような方針で進めていくかについて、常に意見交換をしました。自分たちはどちらかというと、一人でものを考えることが多いと思うので、そこは対照的だと思いました。さらに彼らは、問題を出すスタッフに対しても、打ち負かすかのように考えをぶつけていました。日本では、目上のひとに対して真っ向から意見をぶつける人は少ないので、面白い違いだと思いました。」

スイス大会に行く前と行った後で何か考えが変わりましたか?

    真田さん「スイス大会に行くまでは、自分は英語もほかの言語もとても使いこなせる実力はないと思っていたので自分は日本で暮らしていこうとか考えていました。いわゆる"内向き"な考えでした。
    でも、IBOに参加してからは、僕の貧弱な英語力でも意外と何とかなる場合も多い(実際にコミュニケーションが成立していたかどうかは疑問ですが)ということと、何よりも自分には必ず世界の才能あふれる人々と接しなければならないときが必ず来る、と確信しました。せめて英語だけでも使えるように努力しようと思っています。」

国際大会で一番楽しかったことはなんですか?

    横山さん「各国の代表たちと交流するのが一番楽しかったです。初めの二日ほどは、英語に不慣れだったこともあり、なかなか会話がうまくいきませんでしたが、数日もすればなれて楽しく話すことができるようになりました。中でも思い出に残っているものは六日目の屋外パーティーでした。各国から生物に関するオブジェクトや教科書をもってきてお互いに見せ合う・・・というものだと聞いていたのですが、同じ場所で行われたロックコンサートや近くの噴水の中にみんなで突撃してずっと騒ぎ続けるというものになりました。もちろん誰も教科書なんて目もくれません(笑)。様々な国の、様々な文化を持った皆が一様に楽しむことができるような機会を得られたことは本当にいい思い出です。」

世界の生物学教育について

    代表の体験談に続いて、松田良一先生による「世界の生物学教育について」の講演がありました。講演要旨は下記の通りです。

  • 日本以外の国ではヒトの妊娠、避妊、感染症、栄養、衛生などを生物教科書に詳しく書いているが、日本ではそのような話題は皆無。日本の高校教育では生物学を日常の生活とは切り離したものとして扱っている。保健という科目では必ずしも科学的説明は十分でない。HIV感染者が先進国の中では際立って増加していることや喫煙する若者が多いことなどはヒトの健康を扱わない高校の生物教育に原因の一端があるのではないか。
  • アジアでも上位校では生物学はキャンベルの英語版を使って英語で行われている。それに対し、日本では英語による生物教育は行われていない。そのためIBOでは英語で出題された問題の翻訳に依存する度合いは他の国より高い。翻訳された教科書が多いこと自体は良いことだが、実用的な英語力が身につかない。英語による他教科教育の必要性を感じる。
  • 地学を学習する高校生は全体の10%に満たない。地震、津波、台風など地学マターの災害が多い日本で安全・安心に生きていくためにも地学教育は重要だ。スマトラ沖地震では、イギリスから来た少女が、潮が引いて行くのを見て、イギリスの授業で『潮が引いた後には大きな津波が来る』ということを習ったことを思い出し、周りにいた人に避難を呼びかけ、結果的にみんなが助かったということがあった。科学教育とは、このように実世界とつながっているものなのである。ヒトの健康マターや生活に関係する地学マターを扱い安全で安心な社会を作るためにも「生存のための科学教育」の構築が急がれる。
  • 本年スイスで開かれたIBO2013では広島学院高校の新宅和憲君が金メダルをとりました。これは広島大学で受けさせていただいた特別教育のお蔭です。深く感謝いたします。

「あなたが受けたい生物学教育とは?」~個人アンケート結果~

    代表の体験談、松田先生のお話しを踏まえて、参加者の皆さんにスイス大会に参加した4名も加わり、まずは個人アンケートに答えてもらいました。回答数は80でした。

    「あなたは今まで自分自身が受けてきた生物学の教育に満足していますか?」と言う問いに関しては「はい」と答えた人が17名、「いいえ」が63名でした。「いいえ」の理由として多かったのは「実験がないから」「単に教科書をなぞるだけだから」でした。

    次の「学校の生物の授業はおもしろいですか?」と言う問いに関しては「はい」が54名、「いいえ」が21名でした。「はい」の理由として「自分の通っている学校では先生が教科書以外の内容まで話してくれる」「実験が多い」という回答が多かったです。「いいえ」の理由としては「受験偏重だから」と書いてある回答がいくつも見られました。本選に参加した皆さんは、教科書レベルでは物足りなく、レベルの高い内容を望んでいるのですね。

    最後の「あなたが受けたい生物学教育は、どんなものでしょう?」には、皆さん非常に真剣に考えて、答えてくれていました。多かった回答は下記のようなものです。

    ・今回の試験のように、自分自身で実験をし、自分で答えを考えるという教育を受けたい
    ・日常生活や他分野にもつながる内容を教えてほしい
    ・答えが決まっているもの、一つだけのものばかりではなく、答えがわかっていない実験もしたい
    ・英語で生物の授業を受けたい

「あなたの受けたい生物学教育とは?」~テーブルトークの内容~

左:テーブルトークの様子

個人アンケートに答えてもらった後は、テーブルごとに「あなたの受けたい生物学教育とは?」について話し合ってもらいました。「各テーブルごとにリーダーと書記を決めて進めてください」と言ったものの、「全然盛り上がらなかったらどうしよう。。」と少し不安もありました。でも、杞憂でした。お堅いテーマだったのにも関わらず、どのテーブルも活発で実りある議論が行われていました。「こんな生物学だったらいいな」と題したメモに書かれていたことは下記のようなことでした。

学校での授業について

    ・実験→考察→ディスカッション形式の授業を増してほしい
    ・大学受験のためだけの授業はなくしてほしい
    ・教師側の理解を深化させてほしい
    ・表面だけでなく原理まで教えてほしい
    ・点をとるための授業ではなく、メカニズムを論理的に説明してほしい
    ・暗記してしまえばOKではダメ。生徒が自ら学ぶ環境づくり
    ・(企業+大学)と連携して最先端研究に触れる
    ・学校の壁を越えた交流や深めあいができる授業

教科書・カリキュラムに関して

    ・生物学の分野ごとに解離をなくして、分野ごとの関わりも重視してほしい
    ・英語力がつくような授業を希望。標準の教科書をキャンベルにすべき
    ・生物が得意な人は難しいことを、苦手な人には簡単なことと言うレベル別の教育に
    ・データから読みとる力を付ける教育、論理的思考力身につける教育を受けたい
    ・答えがないようなもの、あるいは複数考えられるものなども学ぶべき。必ず答えは一つとしない。

    「生物学教育」について、真面目に語りあったことは、おそらく今までなかったことでしょう。3千名以上が受験した筆記試験から選ばれ、長時間にわたる実験試験を受けるという試練(?)を受けた「仲間」たちだったからこそ、自分たちの意見をぶつけあえたのだと思います。この仲間たちとの出会いと日本生物学オリンピックでの経験は、きっと参加者の皆さんにとって、いつまでも懐かしく、勇気づけられる想い出になったことと思います。今後の皆さんの活躍を期待しております。

(JBO運営委員 尾嶋 好美)

 

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